下肢静脈瘤
まずはちょっとその場で立って、ご自分の脚を見てください。
足に浮き上がる“ミミズ”や、細かい“くもの巣”模様がありませんか?これらは下肢静脈瘤という病気です。男性でも時々見受けられますが、中年以降の女性に多く、親子で発症することも多いようです。
原因
静脈の逆流防止弁の故障が原因です。
健康な血管には血液を心臓まで押し上げる“筋肉ポンプ”と、押し上げた血液が戻らないようにする “逆流防止弁”の働きが備わっています。この弁が故障して静脈に血液が溜まると静脈瘤になるのです。
症状
多彩な症状が特徴です。
一番多くてわかりやすい症状は、脚の血管が浮き出ることです。浮き出てくる程度も赤いクモの巣状の非常に細かいものから、まるでミミズが潜り込んでいるように太く曲がりくねったもの、さらにはこれらが混在したものまでさまざまです。しかし、血管が浮き出るだけでなく、皮膚の色が黒ずんだり、脚に“潰瘍”を作ることもあります。こむら返り、むくみやすいなどの筋肉の症状を出すこともあります。時には局所的に痛みを伴う硬いしこりができ、赤く腫れ上がる(血栓性静脈炎といいます)こともあります。
静脈瘤が直接命に係わることはまれですが、放置すれば徐々に進行する病気ですので、「下肢静脈瘤」の治療を行っている専門医療機関に早めに相談することがポイントです。
手術前
手術後
発症の仕組み
静脈は心臓から出た血液が手足を回った後に心臓に戻る通り道です。足にある静脈は大きく3本(深部静脈、大伏在静脈、小伏在静脈)あり、それぞれの血管は細かい枝でつながっています。足は重力に逆らい、血液を心臓に返さなければならないため、血液が上から落ちてこないように一方向に弁がついています。下肢静脈瘤は、この弁が壊れて血液が逆流するために発症します。一カ所逆流が発生すると、風船のように静脈の下の方から膨らんできます。上まで戻っていった血液が再び下まで逆流し、血液が循環せずにうっ滞してしまいます。うっ滞すると老廃物がたまったり、酸素が不足したりし、むくみ、こむら返り、重い感じ、疲れやすい、かゆみ、痛み、冷感などの症状が出現します。さらに悪化すると、色素沈着、皮膚潰瘍、静脈炎などを引き起こします。
比較的女性に多い病気で、出産などを契機に20代後半ごろからでき始めることが多く、成人女性の45%に認められるとの報告もあります。また、家族(母娘、姉妹など)に静脈瘤のある方も静脈瘤になりやすい事がわかっています。男性では、調理師などの立ち仕事の方によく見られます。特殊なものでは前出の脚の深部静脈が詰まる病気(深部静脈血栓症といいます)になった後に、二次性の下肢静脈瘤になりやすくなります。
診断
低侵襲な検査が主流です
血管が浮き出ている方は、見ただけで「下肢静脈瘤」という診断はすぐにつきます。しかし、血管が浮き出る以外の症状が前面に出ている方や、適した治療法を選択するためには、逆流を起こしている「表在静脈」や「交通枝」を確認する必要があります。「超音波検査」や「CT」で、体に負担なく静脈瘤の診断や逆流部位の診断が可能です。
3D-CTによる静脈造影。
造影剤は使用せず、静脈瘤の状態が確認できます。
角度を変えると、交通枝の存在が明らかになりました。(黄色矢印)
治療
治療は1つだけではありません。
治療は静脈瘤の種類と逆流の場所、さらには患者さんの年齢や生活様式・希望によって変わってきます。
a.下肢静脈瘤血管内焼灼術(レーザー治療)
麻酔下に皮膚を穿刺し、伏在静脈にカテーテルを挿入します。エコーでカテーテルを確認してから、静脈周囲に十分局所麻酔を行い、伏在静脈の中枢から徐々にレーザーで血管内を焼灼していきます。目的の距離を治療したらカテーテルを抜去します。治療終了後、下肢を弾性包帯で圧迫し手術を終了します。
b.下肢静脈瘤血管内塞栓術(グルー治療)
麻酔下に皮膚を穿刺し、伏在静脈にカテーテルを挿入します。エコーでカテーテルを確認してから、伏在静脈の中枢から接着剤(グルー)を注入して血管を閉塞させ逆流を止めます。目的の距離を治療したらカテーテルを抜去します。静脈瘤切除を行わない場合は、弾性包帯またはストッキングによる圧迫は不要です。
c.静脈瘤切除
主に膝から下の部分の静脈瘤に対しては、皮膚に1-3mmの小さな傷を作り、そこから静脈瘤を直接切除する方法を行います。
d.高位結紮術
伏在静脈と深部静脈の合流部で伏在静脈を結紮し、逆流を止めます。
e.ストリッピング手術
逆流を起こしている静脈にワイヤーを通し血管を引っ掛けて引き抜く手術です。以前はよく行われていた治療ですが、現在ではほとんど行われていません。
f.硬化療法
瘤の中に硬化剤を注入した後、弾性ストッキングあるいは弾性包帯で圧迫して血管を密着させる方法です。大きな静脈瘤には有効ではなく、青や赤の細かい血管が目立つ静脈瘤、網目状やクモの巣状の静脈瘤が適応となります。手術室ではなく、診察室で行います。
予想される合併症や偶発症について- 皮下出血:静脈瘤を切除した場合、皮下出血が遷延することがありますが、数週間で改善します。
- 大腿部(小伏在静脈治療の場合はふくらはぎ)の疼痛や皮下出血:治療後数日間、疼痛を認めることがありますが、多くの場合2-3週間程度で改善します。また、術後しばらく皮下出血を認めることがありますが、これも数週間で自然消失します。
- 血栓性静脈炎:残った静脈瘤が固くなり、痛みを生じ、皮膚に色素沈着を認めることがあります。次第に改善しますが、治癒するまで数カ月を要することもあります。
- 静脈血栓症:深部静脈に血栓が生じることがあります。その場合、下肢が浮腫み、血栓が移動しては肺の血管が詰まると肺塞栓症となります。日本人ではまれな合併症ですが、欧米の報告で、深部静脈血栓症の発生頻度は0.5%以下、肺塞栓症は0.1%程度といわれています。
- 神経障害:足のしびれや感覚が部分的に鈍くなることがありますが、歩行や運動には障害はありません。
- その他:まれに皮膚の熱傷や動静脈瘻、リンパ漏、感染、傷の出血などを生じることがあります。
- 薬剤によるアレルギー
下肢静脈瘤血管内塞栓術(グルー治療)特有の合併症
手術の際に使用する薬剤によってアレルギー反応(過敏症)が生じることがあります。医療用の接着剤(シアノアクリレート)を使用した場合0.8%であったという報告があります。皮膚の発赤や痒みが主症状であり、薬物投与による治療を行うことがあります。稀にシアノアクリレートを取り除く必要がある場合もあります。
